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顔面神経麻痺と耳の症状 ― 鍼灸でどう治療するのか?

1. はじめに

顔面神経麻痺では、顔の筋肉の麻痺だけでなく、耳の症状(耳鳴り・耳閉感・難聴・音が響くなど)が現れることがあります。特にラムゼイ・ハント症候群(帯状疱疹ウイルスによる顔面神経麻痺)では耳の症状が強く出ることが多いです。

この記事では、耳の症状が起こる原因と、鍼灸治療でどのようにサポートできるかを解説します。


耳の症状

聴覚過敏

顔面神経は表情筋を支配するだけではなく、アブミ骨筋も支配します。アブミ骨筋は音が大きく聞こえないように音を抑える作用がある筋肉です。顔面神経麻痺に罹患し、この筋肉の働きが弱くなると音が響いて聞こえる症状が現れる場合があります。健康な状態であれば特に気にならない音も非常に大きく響いて聞こえる厄介な症状です。

耳鳴り

口を動かすと、ボコボコする耳鳴りが起こる場合もあります。それは 病的共同運動によると考えられます。神経の顔面神経の回復過程で神経の再生が誤ってつながると、表情筋を動かす時に耳の筋肉(アブミ骨筋)にも異常な信号が入り、口を動かした時に耳に異常な音が起こることがあります。
これが「ボコボコとした耳鳴り」として自覚されることがあります。


2 内耳への影響(ラムゼイ・ハント症候群など)

帯状疱疹ウイルスによる顔面神経麻痺(ラムゼイ・ハント症候群)の場合、耳の奥の蝸牛神経(聴神経)や前庭神経にも炎症が波及し、耳鳴り・聴力低下・めまいが起こることがあります。

耳の症状が起こる原因

  • 顔面神経と聴覚神経の近接性

    顔面神経は内耳の近くを通過するため、炎症やウイルス感染によって耳の症状が同時に出ることがあります。
  • 神経の炎症・圧迫

    炎症が広がることで、聴覚や平衡感覚をつかさどる神経(内耳神経)にも影響が及ぶ場合があります。
  • 血流障害

    神経や耳周囲の血流が悪くなることで耳の違和感や聴力低下につながることもあります。

3. 鍼灸での治療アプローチ

(1) 局所のツボ刺激

  • 翳風(えいふう):耳の後ろにあるツボ。顔面神経が出てくる部位に近く、耳鳴りや耳閉感にも用いられる。
  • 聴宮・聴会:耳の前にあるツボで、聴覚症状や顎関節の違和感にも有効。
  • 耳の症状を訴える方は、側頭部がむくんでいたり、硬結が認められる場合が多いので、側頭部に鍼を打つことも重要です。

(2) 全身調整

  • 奇経治療や経絡治療を組み合わせ、自律神経や免疫のバランスを整えることも大切です。奇経八脈の陽維脈が耳の周りを走行しているので、陽維脈を整えることが耳の症状を緩和する上でとても重要です。

さらに胆経や三焦経も耳の周辺を密に走行していますから、胆経や三焦経の経脈を整えることも、耳の症状を緩和する上で非常に重要です。

  • 耳の症状はストレスや疲労でも悪化しやすいため、ストレスを緩和する鍼治療も行いながら、全身治療で回復力を高める。

(3) 筋肉へのアプローチ

  • 顔面神経麻痺の回復では、耳周囲の筋肉(胸鎖乳突筋・側頭筋など)の緊張を緩めることが重要。
  • 筋肉をターゲットにした鍼で血流を改善し、耳の症状の緩和を目指します。

4. 実際の治療例(症例の紹介)

  • ラムゼイ・ハント症候群で口を動かすとボコボコと言う耳鳴りがすると言う患者さん に、翳風・聴宮への刺鍼と当院の院長が考案した、三焦経を調整する全身治療を組み合わせで行ったところ、早期に症状が緩和しました。
  • ベル麻痺に罹患し、患側の耳閉感の症状があるとの事です。奇経八脈の陽維脈で施術を行ったところ治療3回後には耳閉感は半分ぐらいに改善したとのことです。治療4回目には治療開始前の耳閉感を10とすると2から3に改善したとのことで、かなり耳閉感は楽になったとのことです。

※あくまで症例であり、効果には個人差があります。


5. まとめ

  • 顔面神経麻痺は「顔の麻痺」だけでなく、耳鳴り・耳閉感・難聴などの耳症状も伴うことが多い。
  • 鍼灸治療では、局所のツボ刺激と全身調整を組み合わせることで、耳の不快感を和らげるサポートができる。
  • 症状が長引く場合は耳鼻科との併診をおすすめしながら、鍼灸を併用すると回復を助ける可能性がある。