顔面神経麻痺を発症すると、初期には麻痺側の表情筋が十分に動かなくなり、頬が下がってほうれい線が浅くなったり、ほとんど消えてしまったりすることがあります。
ところが、顔面神経の働きが回復してくる過程で、今度は反対に、麻痺側のほうれい線が健康な側よりも深く目立つようになることがあります。

これは、単純に「顔面神経麻痺の症状が改善したから頰の筋肉が硬くなった」ということではありません。
回復期には「筋肉のこわばり」が起こることがあります。
こうした回復後の筋緊張の亢進や拘縮によって、患者様からは
「麻痺した側の頬が硬い」
「頬が引きつっている」
「顔の半分が締めつけられる感じがする」
といった訴えが聞かれることがあります。
なぜ、ほうれい線が深く見えるのでしょうか?
ほうれい線は、単なる「皮膚のしわ」ではありません。
頬の皮膚や皮下組織、さらに大頬骨筋、小頬骨筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋など、口角や上唇、頬を動かす複数の表情筋の働きと深く関係しています。
顔面神経麻痺の回復過程で、これらの筋肉の一部が必要以上に緊張すると、頬の組織が内側へ引き込まれるようになり、鼻の横から口角にかけての溝が強調されます。
その結果、発症初期には消えていたほうれい線が、回復期になると今度は健康な側より深く見えることがあるのです。
左右差が強くなると、真正面から顔を見たときだけでなく、笑ったときにも顔の非対称性が目立つことがあります。
当院でも当初、硬くなった患側の頬を柔らかくすれば、ほうれい線も薄くなるのではないかと考え、頬の緊張している部分に対して鍼灸治療を行ってきました。
しかし、単純に「硬いところにたくさん鍼を打つ」という方法だけでは、ほうれい線の左右差が十分に改善しないケースも経験しました。
そこで当院院長が、顔面神経麻痺後に深くなったほうれい線に対する独自の鍼治療法を考案しました。
その具体的な施術方法や刺鍼部位、考え方については、当院院長が執筆し、近々出版予定の鍼灸師・医師向け専門書『顔面神経麻痺の鍼灸治療』で詳しく解説しています。
顔面神経麻痺後のほうれい線や頬のこわばりを治療する際には、表面的なしわだけを見るのではなく、どの表情筋が過緊張を起こしているのか、顔全体の筋肉のバランスがどう変化しているのかを評価することが重要です。







